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Tracing our donations and efforts
JOURNAL #21
DATE : Nov 24, 2022
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JOURNAL #21 Nov 24, 2022

Tracing our donations and efforts

- 寄付のゆくえ。 -

そもそも寄付したお金って、どう使われているのだろう? ささやかな疑問を解決するために足を運んだのは、熊本県八代市。そこは〈Pilgrim Surf+Supply〉の寄付先の1つである「チームドラゴン」のホームフィールド。彼らが主催するトレイルランニングレース「やっちろドラゴントレイル2022」を通して、〈Pilgrim Surf+Supply〉の支援金はどのように社会貢献へと繋がっているのか。コロナ禍に豪雨災害を経て3年ぶりに行われたレースの模様を中心に、寄付金のゆくえを「Pilgrim Surf+Supply KYOTO」の関和真がカラダを張ってレポートしていきます。

Photography:Kensuke Ido
Text:Hiroshi Yamamoto

そもそも、なぜ寄付をすることになったのか?

〈Pilgrim Surf+Supply〉では、2020年7月から環境負荷の低減を目指し、ショッピングバッグの有料化をスタート。その売上の全額及び特定商品の売上の一部を、環境保全団体への寄付や社会貢献活動などに充てている。

「そもそもの目的は、寄付ではなかったんです。むしろ、ショッパーを無くすための施策として始めたのがきっかけ。実際、在庫もあるのでいきなり無くすこともできませんし。そんななかで出た案が、お客様へマイバックの持ち歩きの推奨をしながら、ショッパーが必要な方にはコストをご負担いただくという方法でした」

そう語るのは、〈Pilgrim Surf+Supply〉のディレクターを務める泉貴之さん。

「ショッパーそのものはお客様への提供用。この施策でお預かりした金額を、ぼくたちの収入にすることにはとても違和感がありました。このお金をもっと社会や人の役に立てることに使いたい。そこで環境保全団体への寄付や社会貢献活動に充てることにしたんです」

とはいえ〈Pilgrim Surf+Supply〉として、どこに、どのような寄付をするべきなのか。意外と正解を見つけるのは難しい。

「『正解を探すのではなく、好きな寄付団体、心が動く組織に寄付をすればいいんです』、と日本ファンドレイジング協会の鵜尾雅隆さんがラジオで話されていて。この話をヒントに、自分たちらしい寄付をすればいいんだという指針が明確になりました。1つの軸として見えてきたのが、自然、環境を守る活動をしている団体ということ。さらにぼくたちの想いとして、社会や行政に社会問題として認知されていない活動にスポットを当てたかった。そこで〈patagonia(パタゴニア)〉の環境・社会部門 アクティビズムコーディネーターの中西さんに相談したんです」

その相談のなかで出てきたいくつかの候補のなかで、〈Pilgrim Surf+Supply〉として寄付先に選んだ団体の1つが「チームドラゴン」という団体。

「熊本豪雨による災害発生をきっかけに寄付を決めたのが、「やっちろドラゴントレイル実行委員会」が「豊かな球磨川をとりもどす会」とタッグを組んで立ち上げた、『坂本町災害支援チームドラゴントレイル(通称、チームドラゴン)』です。彼らは災害・復興支援を行うだけではなく、森を守る活動をしながらトレイルランニングのコースを作り、レースまで開催し、町おこしにも繋げてきた。そんな彼らへの短期・中期的な支援を決めたんです。つる詳子さんのような環境活動家が、団体の中心にいることも決め手になりました」

復興支援としてのトレイルランニングの大会。

2020年7月、記録的な豪雨により甚大な被害を受けた熊本県八代市坂本町。球磨川は氾濫し、各地で橋の崩落や土砂災害が発生。トレイルランニングレース「やっちろドラゴントレイル」のレースディレクターを務め、チームドラゴンの代表を務める吉田諭祐さんは、すぐさまレースの無期限延期を決定した。

「トレイルランニングの魅力って、競技性だけではないと思っているんです。自然に触れることそのものも楽しいし、そこから環境問題に気づいたり。ランナー同士のコミュニケーションもあれば、エイドの方々との交流を楽しんだり。トップ選手から最後のランナーまで、それぞれにストーリーがあって楽しみ方も変わってくる。とても懐の深いアクティビティなんです」

災害を経て3年ぶりに開催された「やっちろドラゴントレイル」には、レースという体裁を持ちながらも随所に吉田さんのメッセージが明確に感じ取ることができる。

「九州初の100マイルレースとして知られる『球磨川リバイバルトレイル』が3月に開催されたときに、今年こそ豪雨災害復興祈念大会として『やっちろドラゴントレイル』を復活させようと決断しました。仲間内から始まり、2年目には九州全県から50名が出走してくれて、今年は全国から150名のエントリー。より多くの方々に、坂本町で起こった災害、復興支援について、球磨川流域で起きている環境問題まで、あらゆることをこのレースを通して伝えていこうと思ったんです」

今回のコースから荒瀬ダム撤去跡地が組み込まれ、コース脇には〈Pilgrim Surf+Supply〉の寄付金の一部が使われた鹿避けネットが所々に設置されるなど、災害を通じて高まった吉田さんの環境への意識を感じられるレイアウトになっている。ともにレース運営を手がけ、「豊かな球磨川をとりもどす会」及び「チームドラゴン」の事務局長を務めるつる詳子さんはこう話します。

「鹿の食害によって、土壌が侵食され、土砂災害が起きやすい状態になっていたんです。そんな状況を少しでも改善しようと、支援金をもとに鹿を避けるためのネットを設置し始めました。広大な球磨川流域の抜本的な解決にはならないかもしれないけれど、次世代に繋ぐためのテストケースを見せることはできるじゃないですか。トレイルランナーには環境に対して意識の高い方が多いので、声高々に叫ばなくても、コースを走りながら感じてくれると思うんです」

災害からの復興、そして環境問題。あらゆる要素が絡み合い、出走した150人のランナーはもとよりエイドのスタッフにボランティアの方々、さらに支援作業に参加した1200人にも及ぶメンバーまで、携わった人のすべての想いが込められた「やっちろドラゴントレイル」。3年振りの開催を終えて、吉田さんは何を思ったのか。

「『やっちろドラゴントレイル』は、順位も付けないし、優勝してもなにもありません。あくまでも復興支援イベントです。64kmという旅路を通して、人との繋がりを実感して、自然の尊さに目を向けるきっかけになってほしい。競争ではなく共走。トレイルランニングだからこそ表現できた、ぼくたちの想いを少しでも感じてくれたら嬉しいですね」

レースに参加して感じたこと。

あらゆる人の想いが詰まった「やっちろドラゴントレイル」。総距離は64kmで制限は15時間、累積獲得標高は4,300mにも及ぶ。この一筋縄ではいかない過酷なレースに自ら挑んだのが、「Pilgrim Surf+Supply KYOTO」に勤める関和真さんだ。

「今回の寄付を通して、熊本豪雨による災害や復興作業について、自分なりに理解したつもりではいました。でも、実際に現地を訪れて災害の跡を目にしながら話を伺ってみると、想像以上に過酷だったことを実感させられました。しかも、災害に屈することなく復興作業のみならず、同じような災害を起こさない為に環境整備まで行っている。『チームドラゴン』のこの地域に対する熱い想いはもちろん、次世代に繋ぐことへの強い決意を感じました」

インタビューを行った鶴之湯旅館はもちろんのこと、レースのスタート・ゴール地点となった道の駅坂本にも、豪雨の爪痕は今もまだ数多く残されている。そういった光景を目の当たりにしながら、実際に参加した「やっちろドラゴントレイル」はどうだったのだろう。

「完走できなかったことが、本当に悔しいです...。以前、似たようなコースプロファイルのレースを完走しているので、自分のなかではゴールのイメージはできていたんですが。それでも、とにかく見所が多くて楽しかったですね。廃道を切り開いた場所や、木段が打ち込まれたトレイル、ぼくらの寄付金の一部が使われている鹿避けネットに撤去された荒瀬ダムなど、走りながらチームドラゴンの方々の復興作業、環境整備、トレイルワークの数々を確認できるし、環境問題を考えるきっかけがたくさんありました」

しかも、エイドには冷たいコーラや袋かき氷がスタンバイされ、スタッフの方々による賑やかで手厚いサポートも受けられる。

「エイドの充実度は最高レベルだと思います。配置場所もトレイルランナーの気持ちがわかっているというか。登り疲れてヘトヘトのところにあったり、思わぬところで私設のエイドがあったり。エイドがあることの安堵感もありますし、なによりもスタッフの方々の応援で元気になれるんです。ランナーが無事にゴールするための"温かい想い"を、常に感じながら走ることができました。とにかくホスピタリティの高いレースなので、来年も参加してリベンジを果たしたいと思っています!」

惜しくもゴールはならなかったものの、「やっちろドラゴントレイル」の醍醐味を存分に堪能した関さん。実際に今回のレースでの経験は、店頭ではどのように活きてくるのだろう。

「ぼくたちの目的は、ショッパーを無くすことです。1人1人がマイバッグを持ち、地球環境について考える社会を目指していきたい。だから、寄付をするだけにとどまらず、寄付先でどんなことが起きていて、どのように使われているのかを知る必要があると思うんです。今回、実際に見て、聞いて実感したことを、店舗スタッフに共有し、より多くのお客様に〈Pilgrim Surf+Supply〉としての想いを伝えていければと思っています」

なお〈Pilgrim Surf+Supply〉では、この他に森林に環境負荷をかけない林業「自伐型林業」という手法を開発・普及させている「NPO法人自伐型林業推進協会」にも寄付を実施。林業界が抱えるあらゆる問題を根本的に解決させ、地域再生・土砂災害防止へ直結させる活動の支援も行っている。

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