JOURNAL

Miyu Kaneko and the Fascinating World Of Succulents
JOURNAL #19
DATE : Nov 25, 2021
SCROLL
JOURNAL #19 Nov 25, 2021

Miyu Kaneko and the Fascinating World Of Succulents

- 金子未由さんと素晴らしき多肉植物の世界 -
Pilgrim Surf+Supplyの店舗に多肉植物を提供する「QUEPASADA(ケパサダ)」の金子未由さん。人が住めないような土地にわずかの水で育つ多肉植物を探しに出かけ、育てて、ショップにリースをしたり、販売したり。色、形、育ち方、ひとつひとつがユニークかつスペシャルな多肉植物に魅了され、ライフワークにすることになったきっかけと経緯、世に送り出す喜びについて聞きました。

Photography:Kensuke Ido
Interview&Text:Yumiko Sakuma
Pilgrim Surf+Supplyの多肉植物を担当されているということなのですが、もともとこの世界に入ったきっかけを教えてください。
見たこともなかった植物の魅力に引き寄せられ、身を投じるまでに時間はかかりませんでした。葉山に住んでいたときに、大船にあった紅波園というサボテン屋に行ったんです。植物だけの世界で、「希少なものは素人が育てるものではない、ちゃんと技術がついてから育てるものだ」と言われて、お金を出す気持ちがあっても買わせてもらえなかったんです。サボテン屋と言っても多肉植物はサボテンの中の一属である多肉植物専門のお店で、この植物がいつ頃日本に来たかとか、その時にどういった事件や衝撃があったかとか、サボテンの数だけドラマがあると園主は言っていました。そのため、ひとつひとつの植物にドラマがたくさんあったんですよね。
私が伺った時、園主はお年を召した女性だったんですけど、この方は亡くなった元園主の夫を大切に想い、夫が残した植物とともに一生を生きていくんだなと思った時に、私もそんなにも魅力的な植物の事をもっと知りたい、育てたいと強く惹かれて、好きになったんです。できることならば一生を植物に触れ合って生ていきたいという気持ちがすぐに、芽生えて。というのも、多くの多肉植物はとても成長が遅いんです。大体、親株となるのに30年ほどかかる種が沢山あるんです。皆さんが「一万円! 高い!」って思うものも、何十年もかけて作られていたり大変希少な種類のものだったりと、決してどの植物も高すぎることはなくて、自分次第で一生育て続けられるですよね。どんどん買わなきゃいけないものでもないですし、ちゃんと面倒を見てあげれば、子育てのように自分より長生きする。
出会いは、25歳くらいのときだったんですが、そこから育てたとしても、親に1回なって、2世代は作れないのかと思うと、これは急がなきゃっと思って。その後、都内に戻ったときに良いご縁があって、今の師と出会って修行させていただいて、今日に至っています。
師の方とはどうやって出会ったんでしょう?
初めて訪ねた園がコウハエン(紅波園)という古い園でした。ここに行けば珍しいものが揃うという場所で今は閉園してしまったんですけど、当時はみんなが異国の植物を宝物のように大切にしていて、植物を買うために遠方から泊まりがけで来る人もいたりして。そこで、まるで宝石を買うかのようにやってくる人たちの気持ちが伝わってきて、行くたびに、足繁く通った人の話を聞いてたんです。「小学生の男の子とかも好きな子がいてね」って。「東京から、お年玉ですかね、握りしめて自転車でやって来るような子がいる」と聞いて、私が植物に出会ったのは25歳くらいの時でしたから、もっと早くこの世界を知っていれば、「はぁ、そんな子になりたかったな」という気持ちでいたんですね。
東京に戻ってきて、国際多肉植物協会という、多肉植物の普及、研究を目的とする協会に加入したところ、育て方が上手な師をご紹介いただいて、そこで働かせてもらえるようになったんです。でもある日、「何で好きになったの?」と聞かれて、「紅波園がきっかけです」と言ったら、師が「紅波園ね、俺もよく行ったよ」って。「子供の時、小遣い握りしめてさ、金がないから電車なんか乗れないし、自転車で、ひたすら水道水みたいな、井戸水みたいなの飲みながら行ったよ」って話を聞いて、あの少年は今この目の前にいる師なんだなって気がついたんです。そのときに、今からでも遅くないかな、真剣に取り組んでいいことなのかなって思ったんですよね。
様々な出会いが重なったということもあると思いますが、金子さんをそこまで夢中にさせたその魅力は何なのでしょう?
私の専門は、主に乾燥に耐えうるという所に進化した多肉植物で、南アフリカ、マダガスカル、メキシコ、中南米にあるんです。多肉植物自体は日本にも、たとえば小豆島にもありますが、大きな変化を遂げたのはこうした国で動物も住めないような乾燥地帯なんですよね。人間が誰も住まないようなところで、進化を続けてきた植物が好きなんです。

植物には科と属があるんですけど、たとえば、キョウチクトウ科は、中国にも日本にもありますが、南アフリカでは、とても異様な姿、宇宙の植物みたいな形になってるんです。元々の発生した時は一緒でもその土地によって順応していって。人間ではとても住めないような土地で進化した植物の力強さとか、生命力。いろんな植物を見ましたけど、「どうしてこうなったんだろうか」とか「なぜこういう風に進化したんだろう」って考えるんです。太古の植物じゃなく、今、共に生きているんだなということに魅了されるんですよね。
そうした植物が育つところは、人が住めないくらい乾燥してるような場所なんですか?
  • そうですね。多肉植物は多種多様なところに生息していますが、種類の多い南アフリカでもケープタウンの海岸沿いからナミビアにかけての国境近くの地域に、オレンジ川という川が流れていてその近辺には沢山の乾燥地帯の植物が生息しています。文明はあるけれど、酷く乾燥しているため生ていくのは過酷で、特にここ最近は特に温暖化の影響で雨期でも雨も全然降らず、すごく乾燥している場所なんですが、砂漠に育つ植物でも、水が好きなんです。何もない砂漠の中にポツンと、石があって、その石の周りに水が溜まって、そこにコロニーができているんです。そういう子たちが日本に輸入でやってきて、高温多湿の正反対な環境で原産地とはまた違う育ち方になっていきます。日本に持ってきて、そこから園芸が始まります。日本には盆栽の文化もありますし、きめ細かい国民性で、高温多湿なこの国で、サボテン・多肉植物などをうまく作れる。植物って、ただ育ててみたいっていうよりも、それをなるべく現地の魅せられた姿で、自分なりの形にしたいので、「作る」という言葉を使うのですが、戦後70年ほど前に日本にはじめて輸入されてから、見た事も無い育て方も分からない植物を育てたいという思いを持つ人がたくさんいました。そのおかげで、今日日本には世界でも珍しい多種多様な多肉植物が全国で栽培されています。
    先代の方々が入れたいろんな種(しゅ)が、こんなにある国はない、というくらいあるんです。
それは廃れちゃった時期があったということですか?
戦後70年ほど前に日本に入ってきてから耐えず人気は続いています。根や茎が肥大した塊根植物が現在のブームの火付け役となり、各国に自生する多種多様なビザールプランツ(珍奇な植物)に注目が集まっています。日本人は植物好きですし、どの植物が流行っても、それを育てたい、作りたい、失敗してももう1回次こそっていう気持ちが、今のこの日本の多様性な園芸の基盤を作り続けているので、珍しくて稀少な品種を集めたいと思うのも、日本人の国民性が関係しているのだと思います。昨今の植物ブームはで様々な植物にスポットがあたり、多肉植物にも興味をもってもらえるのは嬉しく思っています。多くの方が、どこからでもいいから、植物に興味を持って、その中の一部の方が飽きてしまっても、面白いって思う人がひとりでもいてくれるチャンスは、誰が売ってくれても、どこで出会ってくれてもありがたい。
  • Pilgrim Surf+Supplyの植物を担当してらっしゃいますよね?
    インテリアとしての植物は、ジロジロ、園芸家みたいにみるものではないと思っているので、ただそっとそこにあって、空間がより自然に見えるような、脇役でありたいなと思っています。日々一緒の空間で過ごすスタッフの方には植物との時間を良いものだなと興味を持ってもらったり、お店のお客様もピルグリムさんは沢山の植物があることでさらに素敵なお店だと思ってもらえたらなぁ、と思っています。私が定期的にお店にいって、お世話をするのですが、ピルグリムさんの植物は生き生きしていてお店の方がちゃんと植物を好きでいてくれるっていうのは、やっぱり長持ちするコツでもあるんです。
    お店に何を置くかはどう考えていくんですか?
    植物は種類が多く、無数の選択肢が生まれます。お店の色を聞き、環境を確認してから頭の中の選択肢から植物を選びます。都会にあるニューヨークのお店にはユーフォルビアという植物が置かれていたり、(オーナーのクリス・ジェンティールが)ストレチアという植物が好きだと聞いて。渋谷のお店は、開放的な窓があるので風抜けが良いので「ここなら大丈夫」という植物の幅が広がります。その中で、頭の中の植物リストからいいだろうというものを選びながら、少し海を感じるような、ナチュラルな雰囲気のものを中心に、木にも男の木・女の木みたいなのがあるので、ウィメンズのコーナーには「女性らしいもの」とか、アウトドアの所には少しワイルドで、原産地を思い起こすようなものだとか。それによって、枯れた葉っぱを取るのか取らないのか、とか、枯れた枝を切るのではなくわざと残したりとか。京都店は、風が通りにくく、(植物)育ちにくい環境なので、根が強く、風が抜けなくても育つ植物を置いたり。全体的にモノトーンで、コンクリートの黒に少し木の素材があるという店内の外観なので、あえて渋谷店と同じ雰囲気とかではなく、京都っていう土地柄を考えて「さらに深く」というか、あえて明るいものではなく、上品かつ、深い森みたいなイメージで置いています。
  • 販売もしてるんでしょうか?
    今は、主に大変珍しい植物の注文を受け、卸の販売しています。育てるのも好きですし、種類の豊富さが多肉植物の魅力でもあって、空間をつくる店舗リースの植物では使えない品種にも良いものもいっぱいあるんです。現地から輸入しているものや、成長が遅く国内で普及していない植物、そういったものを面白いと思う方に向けてつくっています。現地に行くとまだまだ日本では見たことがないもの、図鑑にも載ってないもの、日本に普及させていきたい植物がたくさんあります。植物の力は偉大なので、自然に新しい種(しゅ)って生まれてくるんですよね。ある場所から隣の分布地に行き着いた時には、掛け合わせが生まれ、それがある程度コロニーを持った時に新種として発見されたりするので。そういった植物の世界に、とにかく自分を投じていたい。

    リース業としての楽しみももちろんありますけど、植物を見た時の衝撃の楽しみもあるので。植物は生き物でちゃんと見て大切に育てていけば生涯ずっと長く付き合っていけるもの。サスティナブルで、今の時代の考え方にも合っていると思います。
    これからは、多くの方が当たり前に植物を楽しむようになって、もっと本質志向になっていくような気もしています。生産者としてこのハウスで誰かの手に渡るきっかけを育てていて、誰かの手元でさらに大切にされて100%の魅力を出してもらえるのが理想です。
個人が金子さんの育てる植物をほしいと思った場合、購入のてだてはあるのでしょうか?
これまではなかったんですけれど、今、新しい試みとして、Pilgrim Surf+Supplyのショップに置いてある植物たちの販売をスタートさせようと、今まさにディレクターの泉さんと話を進めています。
多肉植物ってどれぐらいあるんですか?
一般に押し花にできない葉や幹、根などが肥大して乾燥に耐えれる植物を多肉植物と称しているのですが今のところ、1万5千種は見つかっていると言われていますね。でも、毎年新種や変種の発見もあって、それ以外にどれくらいあるかは、まだまだ分からないんです。新種や変種は見れば、何科の何属の何から派生したものだっていうのは分かるので、原産地の書籍を見ながら現地を歩いてみて、どこからこの子はやってきたんだろう、ここは何の産地だから、きっとこれで、ここで種がついて、ここをコロニーにしたんだな、と想像を巡らせながら、植物として人に衝撃を与えられる子を増やすことで、素晴しさが伝わればいいなと思う日々です。
多肉植物の育て方を教えてください。
他の植物より乾燥に耐えうるだけなので、鉢底が乾いたらお水をあげる。たとえば南アフリカの土地では、砂がたまたま石に積もって、そこに種が落ちて、それで根を石の隙間とかいろんな所に這わせて、水を得てという過程で育っていくんです。肥料もお水も、すごく少ないものを効率よく循環させる能力を進化させた植物なので、水がたくさんあって湿気もある場所で育てるとなると、ちゃんと見ながらゆっくり育てるしかないんです。その子がお水が欲しいと言ってからあげるのでないと、やる気を削いでしまうんです。一番のポイントは、よく見てあげること。まず自分は見た目で入っていいと思うんです、植物を好きになるには。すごい素敵、かっこいい、と思うものを、見て、見て、見て、見ていくうちに、何て言ってるかが分かるようになっていくんです。

Information

「Pilgrim Surf+Supply」(渋谷)でご覧いただける
「QUEPASADA」の植物

植物の販売について
・植物によっては販売できない物もございます。
・植物の価格については、店頭スタッフまたはお電話にてお問い合わせください。
・ご配送希望のお客様は店舗までお問い合わせください。
お問い合わせ先
Pilgrim Surf+Supply(渋谷)
所在地:東京都渋谷区神南1-14-7
電話番号:03-5459-1690
SHARE ON