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"RE-NEWOOL" is feature, Step by step for the future.
JOURNAL #18
DATE : Nov 12, 2020
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JOURNAL #18 Nov 12, 2020

"RE-NEWOOL" is feature, Step by step for the future.

- 人の手が紡ぎ出す “再生ウール” という可能性 -
ファッション業界だけではなく、様々な場面において、グローバルスタンダードとなった"サステナビリティ=持続可能性"というキーワード。環境・社会・経済、それぞれの観点から私たちの作ったこの世界のシステムをいかに期限なく持続できるかを問われている現代。世界中で様々な取り組みが行われているけど、〈Pilgrim Surf+Supply〉のファウンダー、クリス・ジェンティールもそれに対する意識は高く、以前からその重要性を口にしてきた。そんな中、ここ日本でも常にその可能性を探ってきた〈Pilgrim Surf+Supply〉が、2018年から取り入れているのが、今回紹介する"RE:NEWOOL"という再生ウール素材。国内有数の毛織物産地である"尾州"に位置する愛知県一宮市に訪れ、それが作られる道程とそこに込められた想いを取材した。

Photography:Shunsaku Hirai
Text:Yuji Iwai
街全体が一つの工場のように機能する"尾州"。
一宮市を中心に、愛知県北西部に位置する尾張西部地域と岐阜県北部に位置する西濃地域。肥沃で温暖な土地や豊かな水など、木曽川流域の自然に恵まれたこのエリアは"尾州"と呼ばれ、国内最大級の毛織物産地として知られる場所。その規模は国内生産量の約80%を誇り、海外からも高い評価を受けている。尾州エリアの最大の特長は、糸から織物に至るまでの全行程を担う工場が地域に集まっていること。それぞれの工場がその工程のプロフェッショナルとして高い技術力を継承し続け、街全体がひとつの工場のように機能。ゆえに多種多様な生地の開発を、高いクオリティで保持することができている。
そんな尾州エリアの生産物を世界に広めるサプライヤーの中でも、次々と新しい取り組みを仕掛け、業界をリードし続けるのが、創業150年を超える「瀧定名古屋」という老舗。圧倒的な経験と知識をもとに、様々な生地開発を行ってきた同社が展開するのが、この"RE:NEWOOL"という素材だ。繊維が環境に与える深刻な負荷を危惧し、一宮市に昔からある再生ウールの技法を生かして再定義。その品質の高さはおよそ再生されたものと思えないもので、バージンウールに見紛うほどの美しさを誇るが、一体どのように作られているのか。そこには想像を超える"人の技"と徹底的な管理力があった。
熟練の"人の手"が見せた驚きの感性。
まず訪れたのは、原料となるウール素材のものを収集し選別する工場。全国から集めたスーツやニットの廃棄物をはじめ、様々な工場から出た余り布や裁断くずから、再生できるウール素材のみを選り抜き、綿に戻す作業に進める状態まで整える。ウールと一言で言っても、様々な混率のものがあり、例えば識別不能の素材が多く含まれていたりすれば、ウール素材として再生させることは難しい。よって、ここに集まった多くのものを一枚ずつ識別していくのだが、これがなんとも神業のような手法で行われている。手練れの工員が一枚一枚手作業で調べるのが基本で、布を手で割き、その割け方や感触でウール混率(ポリエステルがどれぐらい含まれているのかなど)を瞬時に判別。これは特有の技術で、発展を遂げる海外の工場でも真似できないもの。ここ尾州で受け継がれてきた高い技術の一つなのだ。さらに、タグなど不要な付属品を切り取った上、糸くずや毛玉なども手で取り、できる限り原料のみの状態に。そうして作業したものを色分けした状態で、次の工場へと出荷する。言葉で説明すればシンプルだが、そこにあるのは熟練された"人の手"で、作業の正確さとスピード感、なんといっても研ぎ澄まされた"感覚"に驚きを隠し得なかった。
  • 分業の中でもクオリティラインは不変。
    次に、仕分けが終わった素材を綿状に戻す"反毛"と言われる作業へと進む。専用のガーネット機を使用し、生地を綿に粉砕するのだが、ここにも機械を操る職人の技が宿る。原料となる素材は様々なものが混ざっているため、粉砕し混ぜやすいように、切り刻んだ素材をお湯で蒸らしてオイルに浸して寝かす。十分に馴染んだタイミングで剣山のようになったローラーへと流すのだが、季節や天候状況によって変わる湿気や温度を鑑みて、職人が水分を調節したり回転を早めたりなど、機械を操作。最も状態のいい綿を作るために、繊細な作業が行われる。そうして綿状になった素材は次の工場へ。先ほどとは違うローラーにのせ、綿をフェルト状にし、"反毛原料"が完成。それを元に、糸を作る紡績へと移る。反毛原料は元になる素材が同じことはないため、微妙に違う色に仕上がるので、それを混ぜ合わせて、色を調整して糸を作るのだが、この"調色"と言われる作業も人の目がなくては成り立たない。1%単位での調色は、やはり一朝一夕でできるものではなく、紡績の専門工場ならではの卓越した技術がそれを可能にする。理想の色の糸が出来上がれば、織機のある工場へと移し、用途やオーダーに合わせて生地を作成。再生ウール生地ができあがることになる。
製品の質を向上させる管理と整理。
ここまでの工程の中でのひとつの大きなポイントは染色の工程が少ないということ。ウール製品などの染色後の残布を使用しているので、染色する必要が無いものが多く、その工程を省略することで、水や化学薬品はもちろん、時間やコストの削減もできてしまう。つまり、環境に優しいだけではなく、安価で良質な製品ができるという仕組みだ。その仕上がりは驚くほど良質で、僕たち消費者からすれば気づくことさえ難しいほどだが、それを可能にしているのが、独自の生機検査と整理作業のクオリティの高さ。堅牢度の管理はもちろん、美観や感触を加えて、生地自体の質を向上させる作業だ。この品質管理こそがジャパンクオリティの最たる部分で、他では実現し得ないところである。同時に、"トレーサビリティ(追跡可能性)"を追求し、分業の質も維持させる。尾州が古くから名声を手にしてきたのは、そんなきめ細かさが根付いた日々の積み重ねなのだろうと肌で感じる取材だった。
  • 小さな一歩がきっかけになることは間違いない。
    "サステナビリティ"は、以前の"エコ"のように扱われる時もあるが、環境面への配慮はもちろんのこと、それだけを表すことではない。この世界の未来永劫なる持続性への問いかけゆえ、スケールが大きすぎて実態が掴めない部分もあるが、確実なのは、こうした小さな一歩が世界を変えるきっかけのひとつになるということ。廃棄されるしか道が無かったものが再び命を得て新しいものとなって次の時代、次の人へと移っていく。この"RE:NEWOOL"も、社会を持続させるためのひとつの取り組みであり、それを使った〈Pilgrim Surf+Supply〉の洋服も、ひとつの取り組みとなる。そして、私たちにとって重要なのは、その洋服の質が良く、"欲しいもの"であるということ。それでこそ"持続"が生まれ、生活のクオリティも維持される。〈Pilgrim Surf+Supply〉では"RE:NEWOOL"を採用したアイテムがリリースされる。あなたがそれを手に取ってくれたなら、そして、それを長く愛用してくれたなら、小さいながらも未来への大きな一歩へと繋がっていくことは間違いない。

"RE-NEWOOL"を使用したアイテムは「Pilgrim Surf+Supply」、「Pilgrim Surf+Supply KYOTO」にてお取り扱いがございます。詳しくはショップまでお問い合わせください。

Pilgrim Surf+Supply
所在地:東京都渋谷区神南1-14-7
電話番号:03-5459-1690
Pilgrim Surf+Supply KYOTO
所在地:京都府京都市中京区烏丸通姉小路下ル場之町586-2 新風館1階
電話番号:075-708-6632
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